晴れた日に空を見上げることが好きだ。
眩しさに目を細めながら、視界いっぱいに広がった青色を楽しむ。
しばらくぼんやりと眺めていると、綿のような光の粒が視界の中にふわふわと浮いていることに気づく。
一時ではあるが、幻想的な世界を楽しむことが出来る。
空を見上げることは、精神的にも良い気がしている。
圧倒的なスケールをもつ空を前にすると、日々のちっぽけな問題がどうでもよくなり、気持ちが楽になる。
「なんだ、こんなことで悩んでいたのか。」と思えることが多い。
そういえば、少し前にこんなことがあった。
大学時代の友人と山登りに向かう道中での車で。
信号待ちをしているときに、友人が僕の目をじーっと見てきた。もちろんその友人は男なので、なんとも嬉しくないわけだ…。
「あっ、お前のまつ毛ってよくホコリが着いているよね。」
僕はあまりにも急な指摘に少しとまどったが、助手席の上のほうに小さい鏡が備えられていたので、せっかくなので確認してみた。
確かに、まつげの先端に細かい白いものたちがついている。
わずかにカールした僕のまつ毛が、見事に空中の小さいほこりをキャッチしている。
手で目をこすると、そのほこりたちはきれいになくなってくれる。
それ以降、僕は少しだけ”まつ毛のほこり”に注意をはらうようにしている。
誤解されると困るので言っておくが、朝起きたら人並みに洗顔はしている。だから、その時点ではまつ毛には何も着いていない。
それがどういうわけか、出先でトイレに行った際などに鏡で確認すると、白いやつらがいることが多い。
僕はときどき、友人などのまつ毛をさりげなく確認してみるが、僕のように白いほこりが着いている人はあまりいないような気がする。
ちょっとうらやましい気持ちになる。
それでも、着いてしまうものはしょうがない。
すこし頻繁に目をこすればいいのではないか。まつ毛をリセットさせてあげれば大丈夫。
とくに近距離で人に会う前には、必ずこすっておこうと。
ビジネスの場で取引先の人とかに万が一気付かれて、「こいつ、顔も洗ってないのかな?」などと思われたら、なめられそうだしな。
“商談前にはまつ毛のリセットを。”
ちなみに、まつ毛をリセットすると、空を見上げた時に現れる”綿のような光の粒”も見えなくなることに気付いた。
あのきれいな幻想的な世界はまつ毛に着いたほこりが正体であったのだろう。
それに感動していた自分がちょっと情けない。
でも、これからもこのまつ毛と長くつきあっていかないといけないので、せっかくならうまくやっていきたい。
何でほこりがたくさんついちゃうのかな?などと、悩みながら高く突き抜けた冬空を見上げた。
視線を地面に戻すと、そんな悩みはどうでもよくなっていた。