2017年1月12日木曜日

カプリ島で狙われたもの。

昨年の夏ごろにカプリ島に行ってきた。
カプリ島はとても素敵な島だったのだが、ひとつだけ苦い思い出が残る旅だった。

そのときはナポリのホテルに滞在していて、カプリ島には日帰りで訪れることにした。
ナポリの港から船に乗って、40分ほどでカプリ島へ到着。
乗船賃は片道17ユーロだったと思う。

ナポリの喧噪、主にアップルコンピューター製品の路上販売攻撃に幾分かうんざりし始めていた時だったので、カプリ島がとても上品に感じられた。

時間も充分にあったので、この島を歩いて散策してみることに。
船の到着地であるMarina Grande(マリーナグランデ)を出発し、かの有名な青の洞窟を目的地として。

最初のうちは、高台から眺める景色に感動し、楽しい道のりだったのだが。
思いのほか道中が険しくて、青の洞窟の最寄りの街、Anacapri(アナカプリ)の中心地に着くまでに二時間ほどかかってしまった。
全身から汗が吹き出していて、バスに乗らなかったことを少し後悔した。

Google Mapsで残りの道を調べると、時間にして一時間ほど。
若干、心が折れそうになったが、せっかくのカプリ島ということでそのまま歩くことに。

歩き始めると、今度は下りの道が多くなってきたので少し楽になった。
だが、意外に目的地の青の洞窟は遠い。
僕を颯爽と追い抜くタクシーやスクーターがうらやましい。

タクシーに頼ろうかな、でもせっかくだから最後まで歩こうかな、などと考えながら歩き続けていると、一台の軽トラみたいな地域密着感が溢れ出ている車が僕を追い越してから、しばらく行ったところで止まっている。

こういう時に限って、察するのが人一倍速い僕は、すぐさまこれは天の助けだと認識した。
汗をかきながら疲れはてたように歩いている一人の日本人を見かねた優しいカプリ島民が親切にも止まってくれたのだと。

こんなことは、大学生のときにもあった。
あれは瀬戸内海の島々を一人旅していたときだった。
教師をされているという中年の女性が、僕が昔の教え子に似ているからという理由でわざわざ目的地の宿まで乗せてくれた。

そんな記憶もよみがえり、少し笑顔になりながら車との距離が縮まる。

車まで2メートルほどに近づいた時に、運転席からおじさんが顔を出してきた。
「青の洞窟まで行くんだろ?どうせ近くまで行くから乗せてってやるよ。」
というようなことを、イタリア訛りの英語で話しかけてきた。
ネイティブではない自分にとっては、こういう完璧ではない英語のほうが聞き取りやすい。

僕は心の中で喜んだ。
ただ、カプリ島とはいえ、ここはイタリア。
警戒心も捨てていなかった僕は、念のため「お金は払えない。」などということを事前に彼に伝えた。

それでも彼は陽気に、乗れよって言ってくれる。

僕は1割くらいの警戒心を残しながら、車に乗ることにした。



若干、車の速度が遅いのが気になる。
若干、おじさんの目つきが気になる。

しばらくすると、おじさんは男性の下半身の話しかしていない。
イタリア人と日本人の大きさの違いなどについて
『男性の下半身学』を受講しているような気分になってしまう。
そして、おじさんは隙をみては触ろうと試みてくる。

ただ、ここでも察するのが人一倍速い僕。
すでに手はさりげなく自分の下半身をガード。
最悪の事態に備えて、車から飛び出すことをイメトレしている。

とりあえず、おじさんの要求には断り続け、でもせっかく乗せてくれたのでもう少し青の洞窟に近づきたい。
たわいもない話に話題転換しようと試みるが、すぐにおじさんはそっちの話題へ。
思春期をむかえた中学生のようだ。
僕のほうが年上ではないかと錯覚してしまう。

車は目的地へと向かっている。
そして、その間もおじさんと僕の攻防は続いている。

そんなことをしていると、ついに青の洞窟へ。
おじさんは諦めたように「着いたよ。」と。
僕を降ろすと、おじさんは何事もなかったように「Have a nice trip!」と言って戻っていった。

別れは意外とあっさりとしていた。

まぁ、これも今振り返れば笑い話である。

カプリ島の平和はこれからも続くだろう。